ロシアのハイブリッド戦争、試される欧州(下)
ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)は人員の募集にロシアの民間軍事会社ワグネルなど、外部の組織まで使っている。英ロンドン東部でロシアのために倉庫に放火し、10月に有罪判決を受けた若い英国人の男6人はワグネル関係者の指示で動いていた。 ロシア連邦保安局(FSB)は、本来の業務ではなかった欧州での破壊工作において以前よりも大きな役割を果たしている。それはなぜなのか。工作を代行する要員探しと関係がある。
ロシアのハイブリッド戦争、試される欧州(上)
2024年7月、英国とポーランド、ドイツの配送センターで国際物流大手DHLエクスプレスの小包が爆発した。どの小包も貨物機に搭載後に起爆すれば墜落させるだけの爆発力を持っていた。 捜査にあたった治安当局は、ロシアが指揮する破壊工作員グループによる犯行だったことを突き止めた。同グループはさらに6キログラムの爆発物を所持していた。治安当局者らがフィナンシャル・タイムズ(FT)に語ったところでは、次の段
AIブームの行方を左右する銅の争奪戦(下)
世界の銅の需要が膨らむ一方で、世界有数規模の鉱山は老朽化している。鉱石の品位は低下し、コストはじわじわ上昇している。チリの国営銅公社コデルコのマキシモ・パチェコ会長は、年を追うごとに「銅の生産が難しくなり、コストも増大している」と話した。 パチェコ氏はさらに、ロンドンで10月に開かれた金属業界関係者が集まる年次会合では、金属トレーダーや企業幹部の間で交わされた議論の中で、「最大のリスク」として、
AIブームの行方を左右する銅の争奪戦(上)
米国西部アリゾナ州のスーペリア郊外には低木が生えた砂漠地帯が広がる。その地で、金属製の昇降機がガタガタと音を立てながら、10分ほどかけて地下2キロメートルまで降りていく。 降り立った「68レベル」では、地表の間に地下水が流れているため暖かな雨が降り注いでいるように感じる。訪れるには、頭にヘルメットをかぶり、つま先を補強した安全靴をはいた上で、緊急用の呼吸装置も付いたツナギの作業着を身に着けなけれ
英財政難が映す欧州福祉国家の危機(下)
ベルギーのシンクタンク「ブリューゲル」は、公的債務残高の比率を安定させるために基礎的財政収支(プライマリーバランス)を国内総生産(GDP)比で5%以上改善しなければならない国として、英国や米国、フランス、スロバキア、ポーランド、ルーマニアを挙げている。 ブリューゲルの計算によると、英国が今後20年内に債務の安定を見込める状態になるには、2031年までにプライマリーバランスをGDP比で1.8%相当
英財政難が映す欧州福祉国家の危機(上)
2024年7月、英総選挙で圧勝した労働党のレイチェル・リーブス氏は有権者への演説で、「言い逃れ」と「混乱」に終止符を打ち、第2次世界大戦以降で最悪の状況にあるとする国の公共財政を立て直すと誓った。 英財務相として英下院の演壇に立つリーブス氏は、決然たる行動という当初の約束とその後の現実との落差を痛いほど認識しているだろう。有権者にも苦い薬を飲むよう求めることになる。生産性が伸び悩み、経済が低迷す
中国の国家統計、膨らむ不信(下) GDPの内訳示さず
中国の国家統計の透明性は10年前と比べてもいくつかの形で退行した。後退の一つに固定資産投資がある。中国の計画経済時代に起源をさかのぼる統計だ。 他の主要経済国は全て、支出に基づいた四半期国内総生産(GDP)で投資や消費、純輸出などの内訳を公表している。加えて、各分野の数字を左右している要因を知るために役立つ小区分も明らかにしている。例えば、米国では2008年10〜12月期に住宅投資が22%減少し
中国の国家統計、膨らむ不信(上) 経済不振で一層不透明に
2024年12月、米首都ワシントンでパネルディスカッションに臨んだ中国のエコノミスト、高善文氏は自分の発言が確実に聞いてもらえることを確かめるように、指でマイクを1度ならず2度たたいた。「我々は中国の本当の経済成長率の数字を知りません」。高氏はこう切り出した。 公の場から消えたエコノミスト 新型コロナウイルス禍の後、多くの人が中国政府の発表する国内総生産(GDP)の数字に疑いを抱くようになり、
世界は気候変動を止められるのか(下) 都市と企業の挑戦
各国が気候変動への「適応」を急ぐなか、多くの国では中央政府よりも都市や地域のほうが大きな役割を果たしている。先進国でも、最も進んだ取り組みの多くが国ではなく自治体レベルで進められている。この見方は、2024年にロンドンの備えを検証した「ロンドン気候レジリエンス・レビュー」を率いたエマ・ハワード・ボイド氏が示している。 フェニックスが取り組む猛暑対策 米アリゾナ州フェニックスでは現在、日陰をつくる
世界は気候変動を止められるのか(上) 迫る「適応」の時代
米アリゾナ州フェニックスの住民にとって、灼熱(しゃくねつ)の高温下で暮らすことは日常の一部だ。ソノラ砂漠に位置し、米国の大都市のなかでも日照時間が群を抜いて長いフェニックスだが、ここ数年の夏の厳しさは際立っている。 2025年には気温がカ氏118度(セ氏47.8度)に達し、8月として観測史上最高を更新した。昨年はカ氏100度(約38度)を超える日が113日も続き、これも過去最長だった。観測史上最