アーロン・ジャッジとカル・ローリー、大リーグ空前のMVP争い
野球データアナリスト 岡田友輔

ポストシーズンが始まった米大リーグで、もう一つ関心を集めるのがシーズンの最優秀選手(MVP)の行方だ。ナ・リーグは、3年連続本塁打王こそ逃したものの55本塁打を放ち、投手として防御率2.87の成績を残した大谷翔平(ドジャース)の選出が有力視されている。一方、ア・リーグは2人のスラッガーが圧巻の成績を残し、空前のハイレベルな争いとなっている。
昨季を含む過去2度受賞のアーロン・ジャッジ(ヤンキース)の活躍は、今季も目覚ましいものだった。打率3割3分1厘で首位打者を獲得。137得点もア・リーグ1位で、53本塁打、114打点はともに同2位だった。何よりOPS(出塁率と長打率の合計)が両リーグ断トツの1.145と非の打ちどころのない成績だが、今年に限っては当確とはいえないだろう。
強敵となるのがカル・ローリー(マリナーズ)だ。今季は60本塁打の大台に到達し、打点も125で2冠を獲得。これだけでも素晴らしいのに、出色なのは、野手では最も重労働のポジションである捕手でこれだけの成績を残したこと。
捕手で50本塁打以上をマークするのは史上初で、両打ちの選手としてもシーズン最多本塁打記録を更新した。さらにチームは24年ぶりに地区優勝。ローリーの攻守にわたる活躍が栄冠につながったことを思えば、こちらも文句なしの内容だ。

近年、MVPなどの記者投票で重視されているセイバーメトリクスの指標に、代替可能な選手と比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかを表す「WAR」がある。米データサイト「FANGRAPHS」によると、今季はジャッジがア・リーグトップの10.1で、ローリーは同2位の9.1だ。
打撃での得点貢献を指数化した「wRC+」は、ジャッジがやはりリーグトップの204。リーグの平均的な打者を100とするので、ジャッジはそのような選手の2倍の貢献をしたことになる。ちなみにローリーは同3位の161。OPSを含むあらゆる指標から、MVPはジャッジだと主張する向きは多い。
ただし、それらの指標の不利を補ってあまりある活躍をした点で、ローリーこそMVPにふさわしいという声も根強い。控え選手に比べてどれだけ得点を増やし、失点を減らしたかを数値化した「RAR」をみると、ローリーはア・リーグの捕手で1位の88.6。2位のアレハンドロ・カーク(ブルージェイズ)は45.7で、負担の大きい捕手で他を大きく引き離すパフォーマンスを見せた価値は計り知れない。
ヤンキースが地区優勝を果たせなかったからといってジャッジの輝きが減るものではないが、ローリーが打っては60本塁打、守っては扇の要としてマリナーズの地区優勝に貢献したインパクトは大きい。

どちらを選ぶかでメディア関係者の意見は割れている。米CBSスポーツのメジャーリーグ担当のマイク・アクシサ氏は「ジャッジの打撃面での圧倒的な優位性は、ローリーの守備面での優位性を上回っていると思う」とジャッジを推す。
一方、同じCBSスポーツのマット・スナイダー氏は「(ローリーが捕手で60本塁打をマークした)この歴史的なシーズンには敬意を払うべき点がある。ローリーはほとんどの試合で捕手を務め、体に大きな負担がかかっているにもかかわらず驚異的なレベルで活躍しており、ボーナスポイントを与えられるべきだ」としている。
今季と同じく激しい争いとなったのが2019年のア・リーグのMVPだった。アレックス・ブレグマン(当時アストロズ)との競り合いの末、選ばれたのはマイク・トラウト(エンゼルス)。WARはブレグマンが8.3でア・リーグ1位、トラウトは7.6で同2位だったが、OPSはトラウトが1.083でブレグマンの1.015を上回り同トップだった。
MVPの投票は全米野球記者協会の記者30人によって行われる。この年、トラウトに1位票を投じたのは17人で、ブレグマンは13人。まれにみる激しい一騎打ちだった。
WARは重要な判断材料ではあるものの、そのような指標で機械的に選出されるのではなく、選ぶ側の価値観なども反映されることが面白いところ。MVPは例年、11月下旬に発表される。ジャッジとローリーが今季放った光彩のどちらに軍配が上がるのか。シーズンの覇権の行方とともに気になるところだ。
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