多様性の「見える化」、その先へ 朝日新聞社ジェンダー平等宣言1年
■gender equality 朝日新聞×SDGs
朝日新聞社は昨年4月、報道や各種事業、組織などにおけるジェンダーバランスをより意識するために、「ジェンダー平等宣言」を発表し、様々な取り組みを進めてきました。宣言から1年を経た現在の状況をお知らせします。
■連載やイベントで読者と共に考える 朝日新聞社代表取締役社長・中村史郎
私たちは国連が進めるSDGsの活動に賛同し、ジェンダー平等の大切さを日々の報道などで伝えてきましたが、果たして自分たちは実践できているのだろうか。そんな疑問から、自らの報道や事業、その担い手のジェンダー格差を改めていこうと公表したのが「朝日新聞社ジェンダー平等宣言」です。多様性の尊重をメディア企業の責務ととらえ、自社から格差解消に取り組むことが、ひいては日本社会の多様性確保の一助につながると考えます。
宣言で四つの指標について目標を掲げました。「ひと」欄や朝日地球会議登壇者は1年目から目標を達成しましたが、女性管理職の登用、男性の育休取得率は道半ばです。
昨年度、これまでのキャンペーン報道「Dear Girls」は、性別を問わず誰もが当事者という意識から「Think Gender~ジェンダーを考える」に改めました。夫婦別姓、男女格差などの課題を深掘りする連載記事やイベントは、皆さまとともに考える機会にしたいと企画しました。
部門を超えてこのテーマに取り組んできた社内組織「女性プロジェクト」の名も今年4月、「ジェンダープロジェクト」としました。女性管理職の登用状況を部門別に示すなど社内で情報を共有し、議論と実践を活発化します。
森喜朗氏の女性蔑視発言とその後の議論は、男性優位で同質性の高い日本型組織文化を可視化しました。新聞社も長く「男社会」とされてきた組織で、当社にとっても「自分たちの問題」です。社員の意識改革、働き方の見直しなどをさらに進め、宣言内容にとどまらないジェンダーの平等、多様性の尊重を目指していきます。
【2020年度に実施した主な取り組み】
◆企業の女性役員の割合向上を目指すキャンペーン組織「30%クラブジャパン」に新聞社として初めて加盟し、30年までに女性役員の比率を30%にする努力目標を設定
◆ジェンダー平等の推進に貢献した活動を顕彰する社内表彰制度を創設
◆識者を招いて社内勉強会を開催
◆大学や企業と連携してシンポジウムなどを開催
◆特集記事をまとめた冊子を全国の教育現場やイベント参加者に贈呈
■メディアは男社会、もっと意欲的な目標値に 幅広い意見集め議論する場、つくる役割ある 稲沢裕子・昭和女子大特命教授
ジェンダー平等を宣言し、こうして状況を公表して「見える化」することは素晴らしい。今後もぜひ続けてほしいと思います。
それでも、目標が低すぎます。女性管理職の比率は「12%から2030年までに少なくとも倍増」としていますが、それでいいんですか。社会は男女半々、読者もです。もっと意欲的な数値にしてはいかがでしょう。朝日新聞は平等宣言とは別に「30年までに女性役員の割合を30%に」との努力目標も掲げていますが、時期の前倒しもあってしかるべきです。
日本のメディアは大変な男社会です。日本新聞協会や日本民間放送連盟に過去、女性の会長はいましたか? 全国紙や在京テレビ局の編集・編成局長は? 英国の研究所が3月に発表した調査では、12カ国・地域の主要メディアで編集トップに女性がいないのは日本だけ。南アフリカはトップの60%、米国は47%が女性でした。日本は記者の女性比率が低く、新聞・通信社で2割ほどです。
私が読売新聞の記者になったのは、男女雇用機会均等法の施行前の1982年。女性記者は珍しく、会見に出ても女性は私1人ということが多かった。
久しぶりに当時の感覚を思い出したのは2013年、日本ラグビー協会の理事になったときです。理事20人のうち女性は私だけ。女性初で、競技経験のない理事も初めてでした。
協会の当時の会長は元首相の森喜朗さん。今年2月、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」などと発言し、女性蔑視として批判されました。ラグビー協会は19年に女性理事が5人となり、男性も含め外部有識者が増えました。性別に関わらず多様な視点で意見を出し、議論が活性化しています。
「女性だから」と性別で、あるいは年齢などでくくる「無意識の偏見」は誰にでも潜んでいます。同質性の高い組織にいると、気づかないまま偏見を固定化させてしまいがちです。序列やしがらみのためおかしいと思っても発言できないことが多く、多彩な発想や意見が出にくくなります。
同じ問題を、メディアも抱えています。
報道機関には、あるテーマを繰り返し報じて、社会にとって重要なテーマだと位置づけるアジェンダ・セッティング(議題設定)の機能があります。またメディアは、社会の多様な考え方を反映して、色々な立場の人たちに向けて情報発信しているはずです。それなのに実は、内部に「色々な立場の人」が少ない、同質性の高い組織になっている。無意識のうちに議題設定の多様性を欠いているのではないでしょうか。
違いが増えれば異論が増え、新たな価値を生みだすことは世界の常識です。多様性は性別に限りませんが、まずはジェンダー平等の達成が大事。その先に、新しい議題設定が生まれるはずです。
最近の朝日新聞は、政治や経済のページでもジェンダーに関する記事を見かけますね。そこで議員の産休育休を取り上げれば政治家に影響を与え、男性の育休を掘り下げれば企業が着目します。海外の事例や日本が置かれた現状も多面的に発信してほしい。社内でリーダーシップをとり、こうした報道を促進するポスト「ジェンダーエディター」を置くことも必要ではないでしょうか。
日本社会は今後さらに、人口減少や高齢化が進みます。縮むパイを男と女で取り合うのではありません。一人一人の能力を生かしてどんな未来をつくるか一緒に考えましょうというのがジェンダー平等。メディアには、幅広い意見を集めて議論する場をつくる役割が求められるからこそ、朝日新聞社には最低限、宣言内容を達成したうえで、さらに取り組みを進めてほしいと思います。(取材・構成 藤野隆晃)
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いなざわ・ゆうこ 1958年生まれ、東京都出身。読売新聞記者として社会部、婦人部(当時)、経済部などで勤務したほか、同社の女性向けサイト「大手小町」の運営に編集長として携わった。日本ラグビー協会理事。18年、読売新聞社を退職。昭和女子大でメディア論を教えている。
■朝日新聞社ジェンダー平等宣言(全文)
すべての国連加盟国が2030年までの達成をめざすSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)。その17の目標の一つ、「ジェンダー平等の実現」に向けて、私たちは「朝日新聞社ジェンダー平等宣言」を発表し、取り組んでいきます。
1.朝日新聞紙面や朝日新聞デジタルで発信するコンテンツは多様性を大切にします。取材対象や識者を選ぶ際には、性別などの偏りが出ないよう心がけます。朝日新聞の朝刊にほぼ毎日掲載する「ひと」欄をその指標とし、年間を通じて男女どちらの性も40%を下回らないことをめざします。
2.国際シンポジウム「朝日地球会議」をはじめとする、朝日新聞社が主催する主要なシンポジウムの登壇者は、多様な視点から議論ができるように、関係者の理解を得ながら、男女どちらの性も40%を下回らないことをめざします。
3.朝日新聞社は、女性管理職を増やし、管理職に占める女性比率を現状の約12%から、少なくとも倍増をめざします。男性の育休取得率を向上させます。性別を問わず、育児や介護をしながらでも活躍できるように働き方を見直し、人材の育成につとめます。
4.ジェンダー平等に関する社内の研修や勉強会を定期的に開き、報道や事業に生かしていきます。
5.ジェンダー平等に関する報道をまとめた冊子を定期的につくり、教育現場や企業で幅広く活用していただけるようにします。
6.宣言内容の達成度や実施状況を定期的に点検し、公表します。
2020年4月1日
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