西田悠哉×野村眞人×垣田みずきが語る「レパートリーの創造 ホープス」──“関西から世界へ”、そのきっかけを京都に作りたい

2026年にリニューアルオープンから10周年を迎えたロームシアター京都が、節目の年を前にした2024年度よりスタートさせたのが、「レパートリーの創造 ホープス」だ。「レパートリーの創造 ホープス」は、日本芸術文化振興会からの「クリエイター支援基金 文化施設による高付加価値化機能強化支援事業」に採択されたことを受けて実現した、京都・関西を拠点とする若手演出家の育成事業で、育成対象者となる演出家と同劇場スタッフの制作者は、京都からダイレクトに世界を目指した創作に取り組む。

本特集では、「レパートリーの創造 ホープス」の育成対象者である劇作家・演出家の西田悠哉(劇団不労社)、演出家の野村眞人、ロームシアター京都の制作スタッフ・垣田みずきにインタビュー。プロジェクトのこれまでの取り組みや劇場との関係を聞いたほか、今秋に行われる公演への思いを語ってもらった。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 井上嘉和

ロームシアター京都と協働できるのはうれしかった

──「レパートリーの創造 ホープス」は、2026年に10周年を迎えたロームシアター京都が、以前から行っている「レパートリーの創造」の新しい枠組みとして、京都・関西を拠点とする若手演出家の育成事業として新たに始動させたプロジェクトです。京都を拠点に活動する、劇作・演出家の西田悠哉さんが代表を務める劇団不労社と、演出家の野村眞人さんが対象アーティストとして選出されたのは、どのような理由からだったのでしょうか?

垣田みずき 「レパートリーの創造 ホープス」のメンターである小倉由佳子(ロームシアター京都 プログラムディレクター)と私で、相談して決めました。西田さんは劇団としてずっと活動され、美術も緻密に手の込んだ作品を作っていらっしゃるアーティスト、野村さんはかなりポータブルと言いますか、シンプルな作風が印象的なアーティスト。かなり特徴が異なるお二人ですが、関西の演劇シーンで活躍するお二人にぜひ関わっていただきたいと思いました。また西田さんは関西の若手演劇人の中で“お兄さん的な存在”というところがあるなと思っていましたし、野村さんは2024年5月に初演された「吉日再会」がすごく面白かったのと、劇場で行なっている「ホリデー・パフォーマンス」や「シアター?ライブラリー?」の企画に参加いただき、いわゆる演劇らしくない作品も作れる方だということを知っていたので、選出させていただきました。

──お二人は「レパートリーの創造 ホープス」の育成対象者に、というお話をどのように受け止められましたか?

西田悠哉 2・3年前のことになると思いますが……僕は2023年に「KIPPU」(編集注:ロームシアター京都と京都芸術センターが35歳以下を対象に行っている創造支援プログラム)に採択され、ロームシアター京都で公演をしていまして、そこからの縁だったと思います。「レパートリーの創造 ホープス」に声をかけてもらって、ロームシアター京都と一緒にできることは単純にうれしかったですね。あと長期のプログラムだったので、自分としても三十代に入ってどうしようかと考えていたところだったこともあり、方針が定まった感じがしたのと、このプロジェクトは海外を目標にしているので、そのチャンスが来たと思いました。

左から野村眞人、西田悠哉、垣田みずき。

左から野村眞人、西田悠哉、垣田みずき。

野村眞人 僕は突然「打ち合わせがしたいのですが」と劇場から連絡が来て、このプロジェクトの話をいただき、驚きました。実は僕はコロナ禍のあと上演という形ではそれほど多く作品を作っていなかったので、少し戸惑いを感じたのですが、すぐにロームシアター京都で作品を上演できるのはうれしいなと思いました。また僕自身、レパートリーのような形で、長いスパンで作品を考えていくことを目指していたので、そこも合致するなと感じて、やってみたいと思いました。

──ちなみにお二人は、それまでもロームシアター京都とは接点が多かったのでしょうか?

野村 僕は個人ではなくチーム(レトロニム)で、先ほど垣田さんからお話があったロームシアター京都の「ホリデー・パフォーマンス」などの企画に2・3年続けて参加しました。そこでは、サウンドパフォーマンスに近い上演だったり、劇場空間そのものを図書館に見立てる企画の中での上演だったり、ロームシアター京都の観客席にまつわる展示だったり、いろいろなことをさせてもらいました。今回のように真っ直ぐ演劇作品を作るという関わり方は初めてになると思います。

西田 僕はこれまで大阪で活動していて、5年前くらいに京都に越してきたので、ロームシアター京都とはあまり接点はなく、本当に2023年度の「KIPPU」が最初でした。でもロームシアター京都は僕が学生のときにリニューアルオープンして、当時は「全国学生演劇祭」の会場だったんですよね(編集注:2017年の第2回から2019年の第4回までロームシアター京都 ノースホールがメイン会場だった)。なので、僕ら世代にとって一番目指す場というか、やってみたい劇場という印象が、拠点を大阪にしている頃からありました。「KIPPU」のあと、ロームシアター京都10周年のときに何か一緒にやろうというお話はふんわりとあったのですが、クリエイター支援基金に採択されたことで、「レパートリーの創造 ホープス」の枠組みでご一緒していく形に変わった感じです。

西田悠哉

西田悠哉

垣田 「レパートリーの創造 ホープス」が立ち上がる以前から、関西の若手演劇シーンを盛り上げたいというお話を西田さんから聞いていたので、西田さんを巻き込んで(笑)、一緒に何かをやろうという企画は考えていました。ただクリエイター支援基金の募集を知り、もともと考えていた企画を少し変えて「レパートリーの創造 ホープス」として応募することになったんです。

漠然と見えていた海外公演が、より具体的になってきた

──2024年度から「レパートリーの創造 ホープス」が始動し、さまざまな研修が行われたとのことですが、具体的にはどのようなことが行われたのでしょうか?

垣田 「海外に作品を持っていくことが、どのようにしたら可能か」ということを考えたくて、国際的に活躍されているプロデューサーの方々にお話を聞く会を開きました。たとえばロームシアター京都の前プログラムディレクターで現在はドイツ・ベルリン芸術祭のチーフドラマトゥルクである橋本裕介さん、KYOTO EXPERIMENTのディレクター・川崎陽子さん、YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)前ディレクターの丸岡ひろみさん、翻訳者、演劇研究者で沖縄の那覇文化芸術劇場なはーと企画制作グループを統括する林立騎さんと、日本の演劇界の第一線にいる4名の方に協力していただいて、ざっくばらんにお話を聞くところから始めました。また具体的に作品を海外で上演するときに必要な実務について、舞台監督の大鹿展明さんにレクチャーいただいて、その回はお二人だけでなく、関西中心に活躍されている若手テクニカルスタッフの皆さんもお呼びして一緒に聞いていただきました。

垣田みずき

垣田みずき

──印象に残っているレクチャーや、新たな気づきはありましたか?

野村 僕は出演者や演出助手として海外に行ったことはあるんですけど、自分自身の作品を海外に持っていくということはやったことがなくて。レクチャーを通して、たくさんの視点をいただいたことで、自分の作品の海外公演について具体的に想像するようになりました。その中で、海外と言ってもそれはどこの国や地域なのかという疑問だったり、海外に出かけていくこともいいけれど、海外から観に来てもらうこともいいよなとか、僕にとって新しい気づきなども得られました。また昨年1年間、文化庁新進芸術家海外研修制度でベルリンに滞在しているあいだ、公共劇場のレパートリーというシステムには日常的に触れていたこともあって、そもそも自分の作品がレパートリーになるということはどういうことなのか、という点についても考える時間を併せて持つことができたのもよかったです。

野村眞人

野村眞人

西田 僕は関西を拠点に、どこまでいろいろな地域でやれるのかを考えていて。なので、「海外で公演したい」という漠然としたイメージだけはあったんですけど、レクチャーを聞きながらだんだんと具体的に考えるようになりました。「海外に行く」って、お金を払えば行けるには行けるんだけれど、海外で公演するにはどういう手続きが必要なのかとか、フェスティバルに参加するという手もあるんだとか。それまで僕は、YPAMやKYOTO EXPERIMENTがどういう仕組みになっていて、どういう人たちが動かしているのかがよくわからなかったんですけど、「レパートリーの創造 ホープス」に参加したことで、これまで“見えない層”としてあったものの顔が見えてくる感じがしました。これまで完全に“野良”でやってきたので、どういう場があってどういう人たちがいるのかを知るのは新鮮でしたし、具体的にどういう流れでフェスティバルにセレクションされていくのか、それはどういう基準なのかという構図が、実際にフェスに視察に行って肌感覚としてわかるところもあって。たとえばセレクションに選ばれる基準について、「面白い」と言っても日本のコンテクストと海外──しかもヨーロッパとアジアのそれとでは全然違うと思うので、自分の目指すものや思考するものがどういう位置付けなのかを顧みることにもなり、お話を聞くのは面白かったです。

垣田 国際的なコードみたいなものがあるということは、私も勉強になりました。「ああ、そういう考え方で海外のキュレーターの方は作品を観られているんだな」というのは発見でしたし、プロモーション面でも個人レベルではこれまで海外に向けて行ったことがなかったのですが、「レパートリーの創造 ホープス」をきっかけにYPAMでプレゼンテーションをさせていただいたり、海外のキュレーターの皆さんに直接アタックしてみたりして、関係作りは一朝一夕に構築できるものではないですけれど、ご案内などを継続することによって少しずつ作っていけたらいいなと感じました。