熊本の水道水で「奇形メダカ」が大量に? SNSで拡散、専門家からは疑問の声【事実検証】
熊本市の水道水で育てたメダカに目が4個ある奇形が大量発生している-。9月中旬以降、こんな情報が交流サイト(SNS)で拡散された。台湾積体電路製造(TSMC)の工場排水の影響や、8月の記録的大雨と関連づける投稿も目立った。本当に熊本で奇形が発生しているのか。メダカの専門家はいずれも疑問を呈した。(鹿島彩夏)
発端となったのは「熊本の水道水」「奇形がわんさか。発生中」という文章とともに投稿されたメダカの画像。目が4個あるように見える。X(旧ツイッター)などで引用されて広がり、「TSMCの排水が原因ではないか」といったコメントが加えられた。
画像は本物なのか。発端となった投稿者とみられる人物に連絡したが、返事はなかった。
熊本市議会環境水道委員会の筑紫るみ子議員は、情報収集のため、SNSを通じて投稿者と接触したという。筑紫議員によると、投稿者は「熊本市中央区の水道水で育てた本物のメダカだ」とし、「変に尾ひれをつけて拡散されているが、TSMCの排水ではなく8月の大雨の影響だと思っている」と主張した。
熊本市上下水道局は「TSMCの排水は下水道に排出されるため、そもそも水道水に混入することはありえない」と説明する。また、水道法に基づき市内各地で水質検査を随時実施しているが、異常は確認されていない。
熊本市西区でメダカの繁殖・販売を手がける「メダカ屋-ARIA-」の清島圭代表(38)は「目が四つのメダカは見たことも聞いたこともない。うちでは発生していない」と首をかしげる。
メダカの生殖に詳しい熊本大大学院の北野健教授(生殖生物学)も「毎日メダカをふ化させているが、目が四つの個体は生まれたことがない。遺伝子変異で偶発的に奇形が生まれる可能性はあるが、研究論文でも見たことがない」と話した。厳格な基準で管理されている日本の水道水が、奇形の原因になることは考えにくいという。
北野教授は「環境が要因であれば同様の奇形が高い割合で発生するはずだ。現物を見ての検証や発生率の把握が必要で、画像だけで環境要因を臆測すべきではない」と指摘した。
メダカを健康にふ化させるにはどんなことに注意したらいいのか。熊本大大学院の北野健教授に聞いた。
自然界ではメダカは、雌が糸のようなものがついた卵を水草に絡み付けるように産む。北野教授は「水槽で育てる場合は、市販のメダカ用産卵床を用意して、そこに卵を付着させると良い」と説明する。
卵は1個ずつばらばらにして、カルキを抜いた水道水で育てる。卵はそれなりの固さがあるので、優しく触れる分には問題ないという。
水温は25度前後を保ち、白くなって死んだ卵はすぐに取り除くのがポイントだ。「そのまま放置するとカビが生える恐れがある」。大体、10日ほどでふ化する。
生まれたばかりのメダカはかなり小さいため、市販のベビー用配合飼料を与えて育てるのがお勧めだ。
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